オフィスの移転や刷新では、回線速度やWi-Fiの電波だけに目が向きがちです。しかし、実際に困るのは、会議中に通信が不安定になること、来客用の端末から社内の機器が見えてしまうこと、障害が起きたときに誰も復旧手順を知らないことです。
以下は特定の製品やサービスを推奨するものではなく、機器を選ぶ前に確認したい設計のたたき台です。実際の通信量、建物の構造、契約内容、必要なセキュリティ水準によって、必要な台数や機能は変わります。
01 / A SIMPLE TOPOLOGY
まずは、配線の中心を一つにする
1フロアでは、配線の中心にルーターとスイッチを置き、そこから各機器へ枝分かれさせるスター型が管理しやすい構成です。
インターネット回線
│
ONU(回線終端装置)
│ WAN
ルーター/UTM(例:社内LANのゲートウェイ)
│ LAN・VLAN
管理機能付きスイッチ
├── Wi-Fiアクセスポイント(社内用SSID)
├── Wi-Fiアクセスポイント(ゲスト用SSID)
├── 有線PC・複合機
└── NAS・サーバー(必要な場合)
ONUとルーターの機能が一体になっている契約もあります。二重ルーターになっていないか、IPv4・IPv6の方式、固定IPアドレスの有無、障害時の問い合わせ先を、回線事業者と機器の仕様書で確認します。
02 / EQUIPMENT
機器は「数」より、役割と余力で選ぶ
| 役割 | 構成例 | 選定・確認の観点 |
|---|---|---|
| ゲートウェイ | ルーター/UTM 1台 | ファイアウォール、更新提供期間、ログ、VPN、同時通信量。セキュリティ機能は製品・契約プランで異なります。 |
| 配線の集約 | 管理機能付きスイッチ 1台 | ポート数に余裕を持たせ、VLAN、PoE、リンク速度、PoE給電総量、故障時の交換方法を確認します。 |
| 無線LAN | 法人向けAP 1〜2台 | Wi-Fi 6以降、同時接続数、ローミング、管理方式、電波調査。台数は壁・床面積・利用場所で変わります。 |
| データ保管 | NASまたはクラウド | アクセス権、暗号化、更新、復元テスト。RAIDは可用性を高めますが、バックアップの代わりにはなりません。 |
| 電源・継続運用 | UPS、予備機、配線ラベル | 停電や瞬断への備え、復旧に必要な設定情報、保守窓口と交換部品の入手性を確認します。 |
「同時接続50台以上」などの数値は、通信量や端末の種類を含めて検証するための目安です。台数だけで、Web会議の品質や通信の安定性が保証されるわけではありません。
03 / ADDRESSING
IPアドレスは、将来の変更も見込んで管理する
小規模なら一つの社内LANから始められますが、来客用ネットワークは別セグメントに分けます。
OFFICE
社内用
例:192.168.10.0/24。PCや業務用スマートフォンはDHCPで管理し、機器はDHCP予約または固定割り当てを使い分けます。
GUEST
来客用
例:192.168.20.0/24。インターネットだけを許可し、社内LAN、管理画面、NASへはファイアウォールで拒否します。
DEVICES
機器管理用
必要に応じて、スイッチやAPの管理画面にアクセスできる端末・経路を制限します。管理用パスワードも個別に設定します。
DOCUMENT
台帳
IP、MAC、設置場所、用途、管理者、更新期限を台帳に残します。アドレスの例は他の拠点やVPNと重複しないように決めます。
04 / WI-FI AND GUEST ACCESS
Wi-Fiは、設置場所と分離をセットで考える
APは電波調査をして設置する
天井や高い位置が常に正解とは限りません。壁、金属什器、会議室の遮蔽、隣接フロアの電波を確認し、必要なら複数台を適切に配置します。PoEは便利ですが、スイッチの給電総量とAPの消費電力が合うかを確認します。
ゲストSSIDは「名前」だけで分けない
SSIDを分けるだけでは、社内LANからの隔離を説明できません。VLAN、ルーターの通信ポリシー、APのクライアント間通信禁止、管理画面へのアクセス制限を組み合わせ、実機で社内機器へ接続できないことを確認します。
05 / SECURITY AND RECOVERY
「守る」だけでなく、戻せる状態にする
- ルーター、スイッチ、AP、NASの管理画面をインターネットへ直接公開しない。
- 管理者アカウントを共有せず、強いパスワードと多要素認証を使える範囲で設定する。
- 機器のファームウェア、OS、NASアプリを、影響を確認したうえで計画的に更新する。
- NASのRAID状態だけで安心せず、別媒体・別場所へのバックアップと復元テストを行う。
- 停電、回線断、機器故障、ランサムウェア感染を想定し、連絡先と復旧手順を紙やオフラインでも参照できるようにする。
外部のクラウドへバックアップする場合は、保存先の契約条件、アクセス権、暗号化、保存期間、削除方法、国外移転の有無などを確認します。個人情報や機密情報を扱う場合は、社内規程や委託先との契約も合わせて確認しましょう。
06 / REMOTE VPN AS AN OPTION
VPNは、必要になってから範囲を決める
VPN機能が搭載されていても、すぐに社内の全機器へ接続させる必要はありません。
目的
社内ファイルの参照、特定の業務システムへの接続など、利用目的と対象を先に決めます。
認証
多要素認証、端末の管理、利用者ごとのアカウント、退職・異動時の停止手順を用意します。
費用と制約
VPNの方式、同時接続数、暗号方式、ライセンス、回線の上り速度、ログ保存期間は製品と契約で異なります。
VPNを有効にすると、外部からの接続経路が増えます。設定後は不要なポートや権限を残さず、ログを確認し、定期的に利用者と端末を棚卸しします。
07 / BEFORE YOU ORDER
発注前に確認したいこと
現場の確認
- 利用人数と端末数、Web会議のピーク
- 有線が必要な席、会議室、複合機の場所
- 壁・金属什器・配線経路・電源の位置
- 停止できる時間と、障害時の連絡体制
見積もりの確認
- 機器本体だけでなく設計、配線、設定、試験、保守
- ライセンスの更新費用とサポート期間
- 初期パスワード変更、台帳、設定バックアップ
- ゲスト分離、バックアップ復元、VPNを含む受入試験
IN CLOSING
小さく始め、測ってから広げる
20人規模だからといって、家庭用機器を置けば十分とも、UTMを導入すれば安全とも限りません。重要なのは、必要な通信を整理し、来客用と社内用を分け、設定と復旧方法を記録し、実際の利用状況を見ながら更新することです。
なお、天井内の配線や電源工事は、建物の管理者、賃貸借契約、消防・電気設備に関するルールの確認が必要です。工事や通信サービスの契約、個人情報の取扱いは、地域の法令や契約条件に適合するよう、必要に応じて有資格者・専門事業者・専門家へ確認してください。本稿は一般的な情報提供であり、特定の構成の安全性、性能、法令適合性を保証するものではありません。